trick or treat!





毎年11月の頭にしていた文化祭が、先生方の大人の事情によりってのはよくわからないが・・・


少しだけ前倒しになって、今年は10月30日、31日に決まったのは、2学期に入ってすぐの事だった。


隣の高等部と合同で行われる文化祭は、結構規模も大きく地域の人達もやって来る。

だから準備にも余念が無くて、クラス委員兼生徒会執行部補佐の俺は目まぐるしい日々を送っていた。



「後は紅茶の入れ方なんだけど、これはまた明日練習するって事でいいかな?」

「いいぜー大石!あっでもよ。あの制服みたいのはどうすんだ?」

「それは私達が、ちゃんと用意するから大丈夫!任せといて!」

「おーなんだか盛り上がってきたな!」



ワーワーとクラス全体が文化祭に向けて、活気だっている。

クラスによってお店をしたり、劇をしたりと様々だけど・・・俺のクラスは執事喫茶に決まった。

執事喫茶・・・最初に聞いた時は何の事だかさっぱりわからなかったが、女子が言うには、メイド喫茶の男版って事で・・

まぁ俺にはそのメイド喫茶もよくわからなかったんだけど・・・



兎に角、女子の圧倒的意見で決まった執事喫茶を成功させる為に、今やクラス一丸になってみんなが動いている。



「じゃあ今日は、これで解散・・・また明日頑張ろう」



クラス委員の俺はみんなに解散を告げると、鞄を肩にかけて足早に教室を出た。


次は部室だな・・・


そう思ってドアを出ると、教室の前に英二が立っていた。



「よっ!大石っ!」

「英二・・・待ってたのか?」

「まぁねん」



近づいて来た英二は、俺の肩に腕を乗せて微笑んだ。



「部室行くんだろ?」

「あぁ」



テニス部の部室

今まで毎日幾度と無く足を運んだその場所は、全国大会が終わって部を引退してしまった俺達には少し遠い場所になっていた。

何か理由がなければ、訪れ難い場所

部長になった桃や副部長を引き継いでくれた海堂は、いつでも練習を観に来て下さいって言ってくれて、甘えてたまに観に行くけど・・・それでもやっぱりたまに・・・だ。

だからこうしてテニスが出来る訳じゃないけど、理由があって部室を訪れる事が出来るのは、やはり嬉しい。

英二もたぶん同じ気持ちなんだろう。



「やっぱりさぁ。今年も激辛お好み焼きにすんのかなぁ?」



部室に向かって歩いてる途中で、英二が去年の文化祭の事を思い出したのか聞いてくる。



「さぁ。今年はどうかな?どんな風にするかは、今のレギュラーで決める事だからな。

あくまで俺達はサポートだから」

「そっか・・・だよな」



英二が少し寂しげな顔を俺に向けた。


英二・・・


俺は黙って英二の頭をポンポンと叩いた。











毎年クラスとは別に、運動部も文化部もそれぞれ出店や展示品をだしている。

テニス部は毎年恒例でお好み焼き・・・ただ何のお好み焼きにするかは、毎年その時のレギュラーで決めていた。

去年は、不二の提案で激辛お好み焼き・・・

決まるまでは早かったが、程よい激辛にするのに手間取った・・・

なんせ提案者が不二だったから・・・

みんなで何度も試食して、たくさんお茶を飲んで本当に楽しかった。

だけど今年はあくまでサポート、練習で忙しい後輩達の為に材料を買いに行ったり、店番を手伝うのが、引退した3年生の役目だ。

寂しいけど・・・去年も俺達に先輩達がしてくれた。みんな通る道だ。



「おっ見えてきた!ちょうど終わったとこじゃね?」

「ホントだな」



校舎を出て、コートが見えてくると1年が片付けを始めているのが見えた。

相変わらずの光景に、なんだかホッとする。



「それにしても、桃と海堂の奴何処にいんだろうね?おチビ何処かなぁ〜〜?」



英二は目を輝かせて、コートを覗いている。

声も弾んで、相当嬉しいみたいだ。



「おっ!いたいた!!」



俺の腕をトントンと叩きながら、英二が指を指したコートフェンスの片隅で、先に来ていた手塚と不二が、桃と海堂と話をしている。



「お〜い!桃っ!海堂っ!」



英二は待ち切れないとばかりに、走り出した。

俺もその後に続く。



「久し振りっ!元気だったか?」



英二はそのまま桃と海堂の間に割り込んだ。



「英二先輩っ!お疲れ様ッス!」

「お疲れ様ッス・・・」

「ごめん。少し遅れたかな?」



みんなの顔を確かめるように、遅れて俺も輪に入ると、桃が顔の前で手を振りながら答えた。



「そんな全然大丈夫っスよ!大石副部長!」



副部長か・・・ついこないだまでは、そう呼ばれていた。

それが当たり前で、ずっとそう呼ばれ続けるんじゃないかって錯覚するぐらい定着してて

でも・・・今は・・・



「桃・・・副部長は海堂だろ?そろそろ慣れなきゃ」



俺の言葉に桃が頭をかいた。



「あっいけね・・・中々馴染まないんっスよね〜

俺の中じゃまだまだ、手塚部長に大石副部長っスから」

「そう言って貰えるのは嬉しいけど、今は桃が部長で海堂が副部長なんだから

しっかりして貰わなきゃ困るぞ」

「へへッ・・スンマセン」

「何ヘラヘラしてんだ、この馬鹿が・・・」

「何だとコラ?もういっぺん言ってみろ!このマムシ副部長が!」

「ハァ?やんのかこの能天気部長が!」

「こらこら二人とも、そこまで!」



俺が二人の間を割って入って止めると、それまで黙って見ていた英二と不二が笑い出した。



「ニャハハハ!!ホント変わんないなぁ」

「ホント・・・和むよね」



いつもの光景に、自然と引退した俺達は笑みがこぼれる。

この二人は、ホントに相変わらずだな・・・

だが、やる時はちゃんとやってくれる。

それがわかってるから二人に俺達の青学を託した・・・


二人の姿を見ながら、思いを馳せていると、いつの間にか来ていた越前が話に入る。



「何言ってんっスか・・・最近止める人がいなくなって、凄く迷惑してるんっスから」

「あっおチビ〜!!」



英二はすかさず越前に抱きついた。



「わっ!止めて下さいよ。相変わらず暑苦しいんだから」

「いいじゃん!久し振りなんだしさ」



英二の奴・・・はしゃいで・・・ホントに嬉しいんだな。


俺はじゃれ合う二人を横目に、手塚に話しかけた。



「で・・・話はまとまったのか?」

「あぁ大体な。俺達が出来る事は、限られているからな・・・

後は去年の売りげを元に今年の予想を立てて、材料を買う事と店番の事ぐらいか」



手塚が話終わるのと同時に後ろから声がした。



「それなら俺がちゃんとデータを出している。参考に使えばいい」

「「乾」」

「材料を安く仕入れるなら、俺に心当たりがあるから教えるよ」

「「「タカさん」」」



いつのまにか揃った、元レギュラーで文化祭の店番について、この後じっくり話し合った。

本当に楽しい時間だった。


後は、文化祭が来るのを待つのみかな・・・

















そして文化祭当日

一日目は忙しい中でも、時間を作って少しだけど英二と回る事が出来た。

しかし2日目の今日は昨日より忙しい。

朝から昨日予想以上に売れたお好み焼きの材料の追加のチェックや店番・・・

その後はクラスで執事・・・

更にその後は、生徒会執行部主催の後夜祭

今年は後夜祭の日がハロウィンって事もあって、仮装パーティーをする事になっている。

運動部は強制参加だ。

英二は早くから何に仮装するか、頭を悩ませていたけど・・・

正直俺は昨日の夜に決めた。

毎日準備等で時間が無かったって言うのもあるけど・・・

何に仮装すればいいか・・・なんて中々決まらなくて結局手軽そうなのを選んだ。



「なぁ大石。結局あれからちゃんと何に仮装するか決めたのか?」

「あぁ。一応な」

「何にしたんだ?」

「言っていいのか?英二は俺に内緒なんだろ?」

「あっ!やっぱ駄目。うん。後でのお楽しみにする」



慌てて訂正する英二。だがしっかりお好み焼きは焼いている。


こういう所はホント器用だよな・・・

俺には出来ない芸当だ。


俺は英二の手際の良さを関心した後、時計をチェックした。



「英二。後10分で交代だから」

「次は誰がくるの?」

「えっと次は、確か乾と海堂だったと思うけど」

「んじゃ時間通りに来るな!」



ニカッと笑う英二に苦笑する。


何処のペアと比べているかは・・・聞かなくても想像出来るところが怖いな・・・



「まぁ・・・あと少しだから頑張ろう」



飛ぶように売れるお好みを捌いていると、あっと言う間に時間が過ぎて、いつの間にか来ていた乾に声をかけられた。



「時間だ。変わろう」

「あぁ。すまないな。後は頼む」



乾に引継ぎをして、英二を見ると英二は海堂にコテを渡していた。



「ほい!後はよろしくねん!」

「お疲れ様っス」



これでテニス部の手伝いは終わり・・・次はクラスだな・・・











教室に向かいながら他愛の無い話をして、ここで英二とは暫くお別れだなっと思って 声をかけようとしたら、英二は俺のクラスに向かって歩いて行こうとしている。


アレ・・間違えてる?


話に夢中で、ホントなら右に行かなきゃ行けないのに、俺と一緒に左に曲がったのかな?



「英二。お前は右だろ?」

「んにゃ俺も左」



英二の肩を捕まえると、振り向いた英二が笑顔を見せた。


ん?それってどういう事だ?



「英二はこの後、クラスの手伝いは無かったのか?」



確か・・・英二のクラスはメイド喫茶だったっけ・・・

決まった時に、お互い似たような事するんだなって笑っていた。



「そっ!俺んとこは女子がメインだからな。男は裏方だし俺がいなくても全然大丈夫!

 それよりも・・・お前だよ」

「俺?」



英二が俺に近づく。



「今から大石は執事すんだろ?悪い虫がつかないように見張ってなくっちゃ」

「えぇ!!」



そんな事を考えていたのか・・・

そういえば最初はする予定じゃなかった執事を2日目にする事になったって英二に話した時に、やたらと噛み付いてたよな・・・

てっきり一緒に文化祭が回れないから・・・とか思っていたけど・・・


英二が上目遣いで覗き込む。



「何だよ。文句あるのかよ?」

「えっ・・?いや・・・ないけど・・・」


やり難いなぁ・・・

英二が側にいてくれるのは嬉しいけど・・・仕事をしてる時は相手をしてやれないし・・・

それに・・・やっぱりお客は女子が多いんだよな・・・

それを見て英二がどう思うか・・・っていうか見張るってどうするつもりなんだろう・・・



「じゃあ早く行こうぜ」

「あっあぁ・・・」



英二の笑顔とは対照的に、心なしか俺の足取りは重くなった。















「お帰りなさいませ、お嬢様」



女の人のお客が来ると、手の開いている執事が入り口に迎えに出てテーブルに案内する。

何度か練習をしたから、俺もそこそこ上手く出来ているとは思うんだけど・・・

俺が接客をしてオーダーを取り始めると、隅っこのテーブルのベルが鳴る。

そのベルは執事を呼ぶ為のベルだ。


チリン!チリン!



「はい。お呼びですか、ご主人様」

「おっ!大石。なりきってるな」

「・・・・・・・・・・・・」



なりきってるって・・・


笑顔の英二を睨みながら、俺は小声で非難する。



「英二。いい加減にしろよ」

「何だよ。俺はお客だかんな。紅茶おかわり」



スッと横に出されたカップに俺は黙って紅茶を注ぐ。


英二の奴、見張るって言ってたけど、これじゃあ嫌がらせだよ。

まぁ英二にしたら、俺が接客する度に、俺を呼びつけるんだから悪い虫がつかないって てんでは、合ってるのかも知れないけど・・・

俺が英二に手を取られているお陰で、他の者が余計に動かなくてはいけなくなって・・・

これじゃあクラスの他の人に迷惑がかかってしまう。


ハァ・・・

どうしたものか・・・


俺は頭を悩ませた。



「おいっ菊丸っこんなとこにいたのかよ!!」



入り口に出来た列の横から顔を出して、英二を呼んでいるのはどうも英二のクラスの奴らしい。

英二の横まで駆け寄って、足を止めた。



「どうしたんだよ。何かあったのか?」

「何かあったじゃないよ。今凄く忙しくて手が足らないんだ。すぐ戻ってくれ」



英二はあからさまに面倒くさそうな顔をしたが、呼びに来た奴の焦り顔に重い腰上げた。



「しゃーねぇーなぁ」



そう言って立ち上がったかと思うと、俺の肩を捕まえて引き寄せて耳元で囁いた。



「あんまり愛想を振りまくなよ」



愛想って・・・それはお前だろ?

英二はいつも振りまいてるじゃないか・・・



「んじゃ大石。後でな、終わったら俺の教室に迎えにきてねん!」



俺の肩を叩いて凄い笑顔で、でもちゃんと目で釘を刺す事は忘れずに、英二は迎えに来た奴と自分のクラスへと戻って行った。


やれやれ・・・


英二が出て行った入り口を見ながら、これで仕事に専念出来るなってホッとしながら

少し寂しく思っている自分に苦笑した。





近藤くんがAZUラジでした執事が忘れられなくて・・・・


大石を執事にしちゃいました☆

ホントにあの声で『お帰りなさいませ、お嬢様』はヤバイvv

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